グループ展 「みえたけど、 ない ないけど、みえた」

家入嘉寿馬、シクラトウカ、田村美琴、丸山咲

「みえたけど、ない
ないけど、みえた」

アーティスト:
家入嘉寿馬 @kazukau_ / シクラトウカ @_toukah / 田村美琴 @tmurmit / 丸山咲 @teto_saki925

キュレーター: 家入嘉寿馬 @kazukau_
DMデザイン : 小林夏生

会期:2025.4.19 (土) – 5.5 (月)
開廊時間:平日 / 14:00 – 21:00 土・日・祝 /12:00 – 19:00
休廊日:月・火
オープニングレセプション : 4.19(土)18:00 -21:00


【展覧会情報】
ステートメント:家入嘉寿馬

ぼくたちの視界はさまざまな視覚的な情報で溢れている。人、iPhoneの画面、広告、部屋、道路、テーブ ル、果実、 川、街灯、海、ビル、うで、絵画。 視界を覆う光の反射とは別にも、過去の出来事だったり、現実には存在しない風 景が脳裏をよぎったりする。その風景の観測者にしかみることができない、実在しないイメージ。

家と学校や職場、郊外と都市を往復する日々の中でみえる、物質として実在するモノ、絵、文字といった 記号など、 さまざまな種類のイメージが混在するこの景色と、その時現実に実在せず頭の中だけにある風景。それらがみえたりみ えなかったりすることを考えるとき、人が溢れて広告がビルを覆う渋谷のスクラン ブル交差点にいるときのような気持 ちになる。

こんなにもイメージ過多な世界に、いつからぼくたちは慣れたんだろうか。 一方で、同時にぼくたちはそのようなイメージを創り出してもいる。絵を描くことは、それまで存在しなかったイ メージを現前させるという点に特化した行為だろう。しかし、それ以外の方法でもぼくたちは新しいイメージを作って いる。 例えば誰かの前を横切ること、食材を調理して料理を作ること、本棚を入れ替えること、コーディングすること、道 路を作り直すこと、Xや Instagramに文や写真を投稿したりすること。それは常に新しい風景を創り出していることと いえるだろう。

ぼくたちは現実に物質として実在する風景と、光の反射ではないという意味で実在しない風景をみてい る。他方で、それまで存在しなかった新しい風景を作り続けている。世界は風景になり、風景は少しずつ世界を塗り替 え続ける。そして観測者と作り手は入れ替わり続け、その境目は常に曖昧になる。 このことについて考えるとき、どこまでが実在するのか、どこまでを実在したというべきなのか、ぼくはわからなく なる。 昔のことを話そうとするときに、厳密には思い出し切れない過去が現在と溶け合ってその輪郭が滲み、ずれていくよ うな感覚。その時語られているものは、最早過去ではない新しい何かになっている。コミュニ ケーションとはその何か の交換と、他者と共同での新しい世界の構築なのだろう。

あなたが創り出した風景は、世界にとっては、またはぼくにとってはまだ存在していなかった。ぼくが創り出した風景は、世界にとって、あるいはあなたにとってはまだ存在しなかった。

誰かにはみえたものが、誰かにはみえないものだった。誰かにとってはあるもので、誰かにとってはない ものだっ た。ぼくもあなたもそれを決定しきれないまま、そういう存在があり続ける世界を共有してる。

みえたけどないもの、ないけどみえたもの。ぼくたちは頭の中で、そのようなものによって構成された世界の輪郭が 滲み、輪郭や色がズレて解体されていくのを感じる。そして不恰好に転写されたような、またはその断片のつなぎ合わ せから全く異なるような、現実には存在しなかった、過去と現在や視点が入り組み、かつて不可能だったイメージを作 り出す。 絵画にとってのイメージを作るという行為とは、そのようなイメージについて考えたり共有するという点において、 最も原始的で素朴な試みの一つではないだろうか。あらゆる具象絵画は風景画だった。それは自分にとっても他者に とっても、まだ現実には存在しないものを描くことで新たな現実を創り出すことだった。

それらがある強度をもって立ち上がること、そして誰かに観測されること。その繰り返しの先に、世界はどのよう に、そしてどんな形に変わっていくのだろう。

本展は、異なる意味やコンテクストを持った言葉が繋がっていきテクストが生成され物語になっていくように、複数 の異なる視点や方法、コンテクストを持ったアーティストによって作られた、みえたけどなかった、ないけどみえた複 数のイメージと、その集合としての風景の展示である。観測者であるあなたが、みえるけどない、ないけどみえた風景 によって構成されたこの空間を、どのように歩いたか、そしてそこでみえたものについていつか聞かせてもらえたら嬉 しいと思う。